スポーツMMAの究極

日曜日の午後はPANCRASEディファ有明興行。
石渡伸太郎選手の復帰戦、川村亮選手の復帰戦、清水清隆選手の査定試合、神部選手の試合...など戦前から話題の多い興行だった。



ドクターとしても首都圏興行は今年最後だったので気合いを入れて出陣した。



今年のリングドクターの進展は、

パンクラスメディカルサポートの開始
全ての選手に試合後のアフターケアを無償で提供するシステムの構築。

②試合前健診の変更
無駄な当日健診や形式的に行っている検査項目の撤廃。必要な検査の導入。
だが、医療費のかかる必要な検査は導入に至ることができなかった、今後の課題だ。

マンパワーの充実
新たに久富ドクターにチームに入っていただき、常時4人体制を構築。そして、この興行から、眼科の今野ドクターを迎え入れ、5人体制となった。
外科、整形外科、脳神経外科、そして眼科。  ウィークポイントだった眼科領域がケアできるようになった。

これにより、試合前から試合中、試合後まで、トータル的に選手をケアできる体制が整備できた。  来年からはこの中身だ。  いろいろな意見を取り入れ、改善させ、充実させようと思う。





そして、大会の話し。

その他の事は後述するが、何といってもメインイベントのタイトルマッチは痺れて震えた。

石渡伸太郎vsビクターヘンリーに尽きる。



石渡君は昨年大晦日のDEEP対抗戦でMVPを獲得した試合後に大けがを負い、オペに踏み切ってからの復帰戦。

ビクターは日本人のトップ選手を悉く倒してから満を持してのタイトル挑戦。




この一年間、この日のために石渡君とは何度も何度も会った。何十時間とこの日のために格闘技の話しをし、日に日に高まる感情と溜まり溜まったエネルギーやフラストレーションをすぐそばで感じていた。

だから、負ける気など全くしなかったが、なぜかまさかの結果も考えてしまった。
全てが振り出しに戻ってしまうリスクが大きすぎるからだ。




一週間前も前日も当日もLINEから入る情報は完璧で心配なし。
そして、いつものように入場してくる石渡君のパンツには”さいとうクリニックロゴ”。
一緒に戦うことを確認し、入場後から公平中立なリングドクターモードに気持ちを切り替えた。


試合は、死闘、熱闘、激闘...  何だか表現できないような、技術やルールや形式を超えた”魂”の戦い、”真の男”の戦いだった。スポーツMMAの究極を魅せられた。

一瞬たりとも気を抜けば倒される、落とされる。バンタム級とは思えない重い打撃の音がドクター席に響く。汗と血が飛び散り、両選手の表情は常軌を逸していた。
何かが降臨したような異常なパワーが25分間ぶつかり合い、見ている者にMMAのすばらしさ、厳しさ、そして感動を伝えた。


こんなの見てたら、ほかの物など興味も出ない。スポーツMMAの究極の姿だった。

晦日のイベントも話題が多くて素晴らしい。それによって格闘技界が盛り上がってくれれば尚更いいと思う。
だが、テレビ局の視聴率がどうだって、自分たちには何の関係もないのだ。特に命を削って戦っている選手にはもっと関係ないのだ。
だから、話題だけではなく内容で胸を張れ、観ている者に感動やパワーを与え、社会に勝負できるスポーツMMAの戦いが自分には合っている。  そして、何よりも大好きだ。

こういう時期だからこそ、PANCRASEのそしてスポーツMMAの意地が見れた気がして嬉しかった。



結果は、石渡君の復帰戦勝利。そして防衛。

この戦いの代償は試合後の変わり果てた姿を見れば一目瞭然だった。
だが、腫れて開かない目の奥に、石渡君の、充実しきった安堵感と、全てのプレッシャーから解放された解放感と、そして結果を出し自分を出し切り自己表現したファイターのプライドが強く伝わり、心底、痺れた。そして、惚れ惚れした。

応援し、サポートして本当によかった。




いつかの三崎和雄vsジョルジサンチアゴ戦の感動を思い出した。



ドクターとして試合後のチェックをしたが、緊急性がある怪我はなく安心した。


そして、私服に着替え、一応援団として石渡君と対面。
言葉が出なかった。



石渡君、おめでとう。ビクターヘンリー、ありがとう。

これ以上の言葉はない。


あの場所に居られて本当によかった。


もっともっと、もっともっと多くに人に見せたかったな...。